パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

「もしぼくがきみみたいに音楽ができたら、アメリカには行かなかったよ」と、わたしは言った。「あの年ごろのことだもの。女の子に見とれ、だれかと喧嘩し、明けがた近くに家に帰って来る――それだけでいいのさ。ただ、何かをしようと思い、何ものかになりたいと思い、決心する。もう以前のような生活であきらめてはいられなくなる。始めてみれば、案外たやすいことのようにも思われる。いろんな話も耳にする。あの年ごろでは、ここみたいな広場が全世界のように思えている。世界はこんなものだと思いこんでいる……」