パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

子供のころには、こんなふうになろうとは思ってもいなかった。だれにしても故郷を遠く離れてやむをえず働き、望もうともしないで運をつかむのだ――運をつかむということが、すでに、遠くへ行って、こういうふうに金持ちになりりっぱな大人になり、自由になって帰って来ることを意味しているのだ。子供のころは、まだそんなことはわからなかったが、それでもいつも道を、道行く人を、カネッリの別荘を、そして空のかなたの丘陵を眺めていた。それが運命なのだ。