パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

 なぜ、この村にわたしは帰って来たのか、ここであって、カネッリとかバルバレスコとか、あるいはアルバのような町ではなかったのか? それには理由(わけ)がある。わたしはここで生まれたのではない――それはほとんど確かなことだ。自分がどこで生まれたのかもわたしは知らない。このあたりには、「ほら、生まれる前のわたしがこれだよ」と言えるような一軒の家、一片の土地、あるいは埋もれた遺体もないのだ。丘から来たのか、谷から来たのか、それとも森から来たのか、出窓のある都会の家から来たのか、それも知らない。