李商隱「夜雨に北に寄す」

君歸期(きき)を問ふに未だ期有らず、
巴山(はざん)の夜雨(やう)秋池(しうち)に漲る。
何(いつ)か當に共に西窓(せいさう)の燭を翦(き)って、
郤(かへ)って巴山の夜雨の時を話(かた)るべき。


(語釈)
◇北=北地の意であるが、巴山に対して、おそらく都の地をいうのであろう。
◇巴山=漢水の上流の地で、長安からは南東に当たる。
◇秋池=「秋」は、季節を示す。
◇西窓の燭を翦って=「燭を翦って」は、灯心を切って明るくすることで、夜ふけまで起きているのをいう。「西窓」は、ただ窓の意で、おそらくは、秋の関係で西といったかと思う。
◇郤=強めの助字。


(通釈)
  「夜さめ降る時、北方の都の地にある友人に届ける詩」
君から来た手紙には、いつ都へ帰ってくるかと書いてあったが、まだいつとも予定は立てられない。
ここ巴山の地では、今や夜さめが降りしきっていて、秋色深い池に水が一ぱいに満ち満ちている。
君と一緒に窓に映る灯火の心を切って夜のふけるまで、
この巴山の夜さめの中で手紙をしたためている自分の心情を話し合えるその日は、いつになったら来ることやら。