津島佑子「ナラ・レポート」

 かすかな光の点滅のように、あるいは、とても小さなさざ波のようにはじめは感じるものなのだろうか。それとも、こそばゆい感覚とともに、なにかが遠くをよぎっていくように感じるのかもしれない。
 少年は思いを集中させつづける。とまどいながらも確信をこめて、想像の重力に身をまかせる。確信はある。なぜなら、それは自分の母親にほかならないのだから。ずいぶん前にこの世を去っても、母親は母親にちがいないのだから。地上にひとり残してきた自分の息子に無関心でいられるはずはない。なによりも、息子のほうはこれだけ特別に強い思いを、光ファイバーよりもはるかに迅速確実なつながりで届けつづけているのだから。