小川洋子「冷めない紅茶」

 その夜、わたしは初めて死というものについて考えた。風が澄んだ音をたてて凍りつくような、冷たい夜だった。そんなふうに、きちんと順序立てて死について考えたことは、今までなかった。


 確かにそれまでにも、わたしの周りにいくつかの死はあった。
 小学校の頃弟と一緒に飼っていた熱帯魚は、よくあっさりと死んだ。その死骸を、わたしたちはたいてい朝発見した。わたしよりも早く起きる弟が、「お姉ちゃん!」と叫ぶ声の雰囲気で、熱帯魚の死を知ることができた。「ね、死んでるでしょ。」と、わたしに確かめさせてから、弟は水面を漂っている死骸を掌ですくい上げた。