あまんきみこ「おにたのぼうし」

 せつぶんの夜のことです。/まこと君が、元気にまめまきを始めました。/ぱら ぱら ぱら ぱら/まこと君は、いりたてのまめを、力いっぱい投げました。/「福はあ内。おにはあそと。」/茶の間も、客間も、子ども部屋も、台所も、げんかんも、手あらいも、ていねいにまきました。そこで、まこと君は、/「そうだ、物おき小屋にも、まかなくっちゃ。」と言いました。/その物おき小屋の天じょうに、去年の春から、小さな黒おにの子どもが住んでいました。「おにた」という名前でした。/おにたは、気のいいおにでした。きのうも、まこと君に、なくしたビー玉を、こっそり拾ってきてやりました。/(中略)/でも、だれも、おにたがしたとは気がつきません。はずかしがり屋のおにたは、見えないように、とても用心していたからです。/まめまきの音を聞きながら、おにたは思いました。/「人間っておかしいな。おには悪いって、決めているんだから。おににも、いろいろあるのにな。」/そして、古い麦わらぼうしをかぶりました。角かくしのぼうしです。