水上勉「越前竹人形」

「家内でござります」
と、喜助はひくい声で鮫島に紹介した。鮫島は、さきほど喜助が母屋に入ったとき、声をかけていたのはこの細君をよんでいたのか、と思いながら、ゆっくりと玉枝の顔に目をやった。瞬間息をのんだ。
 美貌だったからだ。すらりと背の高い玉枝は、肉づきのいい固太りの軀をしていた。白い肌が、青みどりの竹の林を背景にして、ぬけ出てきたようにみえる。それに切長の心もちつり上った眼は、妖しい光をたたえて鮫島をみつめていた。
 〈この男に、こんな美しい妻がいたのか……〉
 鮫島はわれを忘れてみとれた。あいさつの声もでなかった。櫛の歯のように生えている竹林にさし込んでいる陽は、苔のはえた地面に雨のようにそそぐかにみえた。玉枝は黄金色の光の糸を背にして、竹の精のように佇んでいた。