松谷みよ子「龍の子太郎」

 けわしい山が、いくつも、いくつも、かさなりあってつづいている山あいに、小さな村がありました。村の下には、すきとおった谷川が、こぼこぼと音をたててながれていましたが、あたりはまるっきりのやせ地で、石ころだらけの小さな畑からは、あわだの、ひえだの、まめだのが、ほんのぽっちりとれるばかりでした。おまけに、ここらにはわるいおにがいて、ようやくみのった作物を、できたかとおもうと、根こそぎさらっていってしまうのです。まったくまずしい村でした。まったく、すみにくい村でした。
 それでも村の人たちは、一つぶ一つぶまめをまきながら、
  一つぶは千つぶになあれ
  二つぶは万つぶになあれ
 とうたって、朝くらいうちから、夜も手もとが見えなくなるまで、せっせ、せっせとはたらいていました。
 さて、その村の村はずれの小さな家に、ひとりのばあさまが、太郎という男の子とすんでおりました。