江戸川乱歩「二銭銅貨」

「あの泥棒が羨しい」二人の間にこんな言葉が交される程、其頃は窮迫してゐた。場末の貧弱な下駄屋の二階の、たゞ一間(ひとま)しかない六畳に、一貫張りの破れ机を二つ並べて、松村武とこの私とが、変な空想ばかり逞しうして、ゴロ/\してゐた頃のお話である。