2015-03-20から1日間の記事一覧

三橋敏雄

いつせいに柱の燃ゆる都かな

森岡貞香

月のひかりとなりし畳に子を招べば肢影ながく曳き少年は来ぬ

吉岡実「薬玉」

菊の花薫る垣の内では 祝宴がはじめられているようだ 祖父が鶏の首を断ち 三尺さがって 祖母がねずみを水漬けにする 父はといえば先祖の霊をかかえ 草むす河原へ 声高に問え 母はみずからの意志で 何をかかえているのか みんなは盗み見るんだ たしかに母は陽…

江戸川乱歩「怪人二十面相」

その頃、東京中の町といふ町、家(うち)といふ家では、二人以上の人が顔を合はせさへすれば、まるでお天気の挨拶でもするやうに、怪人「二十面相」の噂をしてゐました。 「二十面相」といふのは、毎日々々、新聞記事を賑はしてゐる、不思議な盗賊の渾名です。…

江戸川乱歩「押絵と旅する男」

この話が私の夢か私の一時的狂気の幻でなかつたならば、あの押絵と旅をしてゐた男こそ狂人(きちがひ)であつたに違いない。だが、夢が時として、どこかこの世界と喰違つた別の世界を、チラリと覗かせてくれる様に、又狂人が、我々の全く感じ得ぬ物事を見たり…

江戸川乱歩「二銭銅貨」

「あの泥棒が羨しい」二人の間にこんな言葉が交される程、其頃は窮迫してゐた。場末の貧弱な下駄屋の二階の、たゞ一間(ひとま)しかない六畳に、一貫張りの破れ机を二つ並べて、松村武とこの私とが、変な空想ばかり逞しうして、ゴロ/\してゐた頃のお話であ…