椎名誠「「東京スポーツ」をやたらと誉めたたえる」

 駅のホームのゴミバコから新聞をひっぱり出してタダ読みする、という人はけっこう多い。あれはちょっとミットモナイという気分もあるけれど、でもそんなに恥ずかしいことでもないように思うのだ。そうしたからとて誰か迷惑する、というわけでもないのである。
 ゴミバコからもう一度ひっぱり出され、改めて別な男が一面からずっと読み、それはまた電車のアミ棚に置かれ、それが別の男の手に渡り、そうしてゴミバコへ。それをまた別の男が……というケースもけっこう多いだろうと思うのだ。
 新聞だってチンケな男に一度パラパラッと読まれただけでポイと捨てられ、それで一生を終えるよりも、別な人々に二度、三度と読まれていったほうが嬉しいだろうと思うのだ。いろいろな男から男へ渡っていくうちにボロボロになり、あちこち傷ついていくだろうけれど、でも、「それであたいはしあわせだった」と思っているのにちがいないのだ。
 そういう読まれかたをする新聞は夕刊紙が多い。
 その中でもとくに「東京スポーツ」が圧倒的に多いのである。「日本経済新聞」や「朝日」の朝刊なんかは「くそ、まだいたのか!」なんてかならずゴミバコに突っかえされてしまうのである。