ゴンブローヴィッチ『フェルディドゥルケ』(米川和夫 訳)

 思い出! 人類にかけられた呪いは、われわれのこの世における実存が固定した一定の体系なぞ、いかなるものにせよ、がまんならぬと思っていること、しかも、固定どころか、万物は流転し、たえまなく動き、形をかえ、そして、一人一人がその人間をほかの一人一人によって嗅ぎとられ、価値づけられているばかりか、そのうえ、頭のわるい目先のきかぬ鈍感な人間がわれわれにいだく観念も、英明俊敏な人間のいだく観念とくらべて、重要さにおいていささかも劣るところがないということなのだ。なぜならば、人は他人の魂における自分の反映に、もっとも深く従属しているものだからだ。たとえ、その魂がどんなに白痴的なものにしたところで、変わりはないのだ。