井上ひさし『おれたちと大砲』

 茶屋で喰った八十五文の、芋と鯨の煮付けでふくれた腹をこなすには手頃な高さの山である。その、羊腸の如くくねった山路(やまみち)を登りながら、おれはこう考えた。
 薩長の反逆を思えば腹が立つ。君家の窮状を思えば涙が流れる。腹立ちと涙を押えて暮すのは窮屈だ。とにかく人の世はお先まっくらだ。お先のくらいのが高じると、明るいところへひっ越したくなる。どこへ越してもくらいと悟ったとき、おれたちのように、戦おうとするものが生れる……
 おれの考えがここまで進展したとき、先に立っていた重太が、
「すごい眺めだ、まるで箱庭を見ているようですよ」