上田秋成『癇癖談(くせものがたり)』

 むかし、色ごのみなるをとこ、老いてかたりけるは、遊女ほど世にをかしきものはあらじかし、おのれときめきて、ひく手あまたなるにはよるべのすゑのことなど、露ばかりもおもひしらず。逢ふごとの男に、こゝろをおかせ、〔……〕つひに、よき人におもはれて、黄金あまたにうけいだされて後は、いよ/\竹の中よりうまれいでたる人のやうに、ころも調度、あさゆふの物も、時にさきだち、ときにおくれたる品をのみ、このみ事して、猶あくときもあらず、よろづおもひほこれるあまり、〔……〕。