太宰治『晩年』、「ロマネスク」――喧嘩次郎兵衛――

 結婚してかれこれ二月目の晩に、次郎兵衛は花嫁の酌で酒を呑みながら、おれは喧嘩が強いのだよ、喧嘩をするにはの、かうして右手で眉間を殴りさ、かうして左手で水落ちを殴るのだよ。ほんのじやれてやつてみせたことであつたが、花嫁はころりところんで死んだ。やはり打ちどころがよかつたのであらう。次郎兵衛は重い罪にとはれ、牢屋へいれられた。ものの上手すぎた罰である。