田中小実昌『自動巻時計の一日』

 便所でしゃがみこんでるあいだ、おれは古新聞をよむ。おなじ新聞の、おなじところを、なんどもよむことがある。そして、シャクにさわることが書いてあると、うれしい。どうして、こう、バカなんだろうと、シャクにさわることを、いったり、書いたりしたやつを、ケイベツすることができるからだ。しかし、これは、おれにだけしか通用しないルールのゲームで〔……〕。
〔……〕
 プリプリたのしみながら、便所からでてきて、カカアにそのことをしゃべると「きっと、おこるだろうとおもって、目につくように新聞を折っておいたの」とこたえたことがある。