野上彌生子『秀吉と利休』二十

 しかも秀吉の執着は、親しみや懐かしみとは絶縁されていた。秀吉はかえって利休を憎んだ。今日の始末になってまで思いだされることのすべてが、彼の貴重さの証をなし、なくてはならぬものとしての価値づけをあらたにする。この腹だたしさはいままでの尊敬や、信頼や、愛護の念を胸壁から引きむしり、ただ熾烈に憎むことに代えるほかは押さえようがなかった。こうして利休は毎日そばに在ったより、いっそう秀吉にぴったり附きそっていた。