野上彌生子『秀吉と利休』七

 たしかにそれは利休でありながら、利休ではなかった。安慶の鋭いのみは原型の骨格、肉づけ、面、筋、引き締まり、たるみ、盛りあがり、くぼみ、明るみ、かげり、肉体の細部のいっさいを、人間のからだに二つはないほど、的確に彫りあげたにはとどまらない。それらのことごとくが放たれず結びつきながら、まことはどこに、どんな容相で隠れているかは、所有者自らにも知られない神秘なたましいを溌剌と摑みだした点で、像は別個のあたらしい創造物であった。
 利休は息をこめておし黙ったまま、床の間の自分であり、自分でないものから眼を放たなかった。