司馬遼太郎『豊臣家の人々』、第九話

 秀吉はつねにおのれの本心を首筋の血管のように露呈している男であり、つねに本気であり、たとえうそをつくときでも本心からうそをつけるめずらしい種類の男であった。誠実は一筋しかないという愚鈍さはかれにはなく、かれにあっては誠実も本心もその体内の血管の数ほどに幾筋も用意されていた。