『平家物語』巻三

 山の方(かた)のおぼつかなさに、はるかに分け入り、嶺(みね)に攀(よ)ぢ、谷に下れども、白雲跡を埋(うづ)んで、往来(ゆきき)の道もさだかならず。晴嵐(せいらん)夢を破つては、その面影も見えざりけり。山にてはつひに尋ねも逢はず。海の辺(ほとり)について尋ぬるに、沙頭(さとう)に印を刻む鷗、沖の白州にすだく浜千鳥の外は、跡問ふ者もなかりけり。