田中小実昌『自動巻時計の一日』

 顔と手がぬれたまま、風呂場をでる。そして、ほとんど毎朝、タオルをさがす。うちの風呂場には、たいてい、タオルはない。あっても、ぬれている。風呂場から出たところの板の間に、足ふきのぞうきんが、二、三枚おいてあり、めんどくさいときは、それで顔をふく。そのことで、カカアがなにかいったような記憶はない。