安岡章太郎『埋まる谷間』

 この家に住んで、もう四年半になる。私が、ここに五一・七五坪の土地を買い、十一・三五坪のセメント原型スレート葺の家をたてたころには、このへんはT川にそそぐ沢のような湿地帯で、住宅地のなかでは取り残され、見棄てられたような一劃だった。
 いや事実、そこは見棄てられていたにちがいなかった。私の家のまわりには泥の山がそびえていたが、その斜面が削り取られたところを観察すると、破れたゴムの長靴だとか、カン詰の空きカン、玩具のバケツ、黒いボロボロになった布きれ、その他、ありとあらゆる不要な半端物が何段にも層になって、腐ったジュクジュクした土の間から覗いて見え、そこは極く最近まで、あたり一帯のゴミ棄場になっていたものと考えられた。