ジョージ・ギッシング『三文文士』

 最後の巻は十四日で書き上げた。これをやり遂げたリアドンはまさに英雄的ですらあった。というのも、単なる創作上の苦労だけでなく、他に闘わなければならない難敵があったからだ。執筆を始めるが早いか、突然の腰痛が彼を襲った。二、三日間は机の前で身を支えているだけでも拷問のような苦しみであり、体の動きも不自由であった。続いて頭痛が起こり、喉に痛みを覚え、体全体が衰弱していった。そして二週間が過ぎる前に、また少々まとまった金をつくる必要に迫られることとなった。彼は腕時計を質屋に持っていき(それが大した質草にならないことはご想像のとおりだが)、さらに本を数冊売った。このような苦難にもかかわらず、とにもかくにも小説は完成したのだ。「完」の文字を書き入れた彼は椅子の背にもたれかかり、目を閉じ、空白の十五分を過ごした。
 残るは題名だけである。だが、彼の脳はさらなる労働を拒否した。彼は数分間力なく思い巡らしたのち、単純に主人公マーガレット・ホームの名前を採用することにした。とりあえず本の題名として通用するはずである。すでに最後の言葉を書き入れた瞬間から、場面が、登場人物が、会話がすべて忘却の中に消えていた。物語はすでに彼の知識と関心の彼方にあった。