ジョージ・エリオット『ミドルマーチ』

 しかしながら、十一日目、リドゲイトはストーン・コートを出る際にヴィンシー夫人に用事を頼まれた。フェザーストーン氏の容体が急変したことを亭主に知らせ、さらに亭主をストーン・コートに呼んできて欲しいというのである。リドゲイトは直接倉庫に立ち寄ることもできたであろうし、手帳の紙に用件を書いて戸口に置いてくることもできたはずである。だが、どうやら彼はこのような単純な手を思いつかなかったようであり、それから察するに、彼はヴィンシー氏のいない時間に家を訪ね、ヴィンシー嬢に伝言を頼むことをまんざら不都合と考えていなかったらしい。人はさまざまな理由から付き合いを拒絶することもあろうが、たとえいかなる賢者であれ、自分を恋しいと感じてくれる人間が一人もいないと知って喜びはしないはずである。ここで自分が遊興を拒み、耳に心地よい声音からしばらく遠ざかる断固たる決意をした事の次第を冗談まじりにロザモンドに話しておくのも、今までの習慣に新しい習慣をすんなりとつけ加える意味で悪くあるまい。彼はほんの束の間バルストロード夫人の意味ありげな言葉の根拠となるあらゆる可能性に思いを巡らしたが、そうした思案が、まるで髪の毛がわずかに絡みつくように、彼の思考のさらに本質的な網の目に少しく巻きついた程度に過ぎなかったことも、ここで明らかにしておかねばならない。