ジョン・アップダイク『走れウサギ』

 二人はティーの前に来る。芝生が平たく盛り上がり、そのかたわらにねじくれた果物の木が一本あって、固く青白い蕾のこぶしをつき出している。「僕が先にやった方がいいですね」とウサギは言った。「あなたは少し興奮していらっしゃるから」。彼の心臓は怒りによって鎮められ、中庸のテンポに保たれている。どうだっていい、とにかくさっさとこんなところから抜け出したい。雨が降ればいいのに。エクルズの方を見るのを避けて彼はボールを見る。ボールはティーの上高くに乗っていて、もうすでに地上から自由になったように見える。彼はクラブヘッドを、素直に肩の前を通してボールに送り込む。その音には聞いたことのない空虚さ、独自さがある。両腕の勢いに引っぱられて彼の頭は上を向く、彼のボールははるか向こうに浮かんでいる、月のように青白い姿で、背景には美しく青黒い嵐雲、彼の祖父の色が東の空一面に色濃く広がっている。ボールは定規の縁のようにまっすぐ線を引いて遠ざかっていく。傷を負った身が、天球に、星に、点に。ボールはためらう、ボールは死ぬとウサギは思う、だが違う、ボールはこのためらいを最後の飛躍の土台にするのだ。一種、目に見えるすすり泣きとともに、いま一度空間を一嚙みしたのち、落下のうちに消えていく。「これだよ!」とウサギは叫んで、誇示の笑みを浮かべてエクルズの方を向き、「これだよ!」とくり返す。