ポール・オースター『シティ・オヴ・グラス』

 「そのことなら」と彼は言った。「喜んでお答えしましょう。私の名はクィンです」
 「ほう」とスティルマンはうなずきながら、考え深げに言った。「クィン、ですか」
 「ええ、クィン。Q-U-I-N-N」
 「なるほど。ふむふむ、なるほど。クィン。ううむ。ふむ。実に興味深い。クィン。きわめて響き豊かな言葉だ。双子(トゥイン)と韻を踏みますな?」
 「そうです。双子(トゥイン)と」
 「それと、私が間違っていなければ、罪(シン)とも」
 「間違っていません」
 「それと、中(イン)――nひとつのin――とも、宿屋(イン)――nふたつのinn――とも。そうですな?」
 「そのとおり」
 「ふうむ。実に興味深い。この言葉、実にいろんな可能性が見えますな。このクィンという言葉、この本質(クィディティ)のそのまた……精髄(クィンテッセンス)。たとえば、すばやい(クィック)。それに羽ペン(クィル)。それにニセ医者(クワック)。それに奇癖(クワーク)。ふうむ。にやっと笑う(グリン)と韻を踏む。当然親族(キン)とも。ふうむ。実に興味深い。それに勝つ(ウィン)。そしてひれ(フィン)。そして喧騒(ディン)。そしてジン。そしてピン。そしてブリキ(ティン)。そして容器(ビン)。魔神(ジン)とさえ押韻する。ふうむ。うまく言えば、beenとも。ふうむ。さよう、実に興味深い。あなたのお名前、いたく気に入りましたぞ、ミスター・クィン。あっちこっち、実にいろんな方角に、いっせいに飛んでいく名です」
 「ええ、私もよくそう思うんです」