デイヴィッド・ロッジ『どこまで行けるか』

……そしてまだ紹介していない、いままで測廊を覆う影に隠れていたもう一人の女の子がその影のなかから出てきて、聖体拝領台のところにいる連中の仲間に加わる。彼女をヴァイオレットと呼ぼう、いやヴェロニカにしよう、いやヴァイオレットだ、アイルランドカトリック系の女の子はたいがいケルトの聖者や伝説の人物の名をつけられるから実のところありそうもない名なのだが、私としてはヴァイオレットという名の含みが気に入っている――縮こまる(シュリンキング)ヴァイオレットといえば引っ込み思案、ヴァイオレットは悔悛、憂鬱の色。彼女は小柄なブルネットの女の子で、青白く可愛らしい顔立ちは湿疹に荒らされ、下の肉が見えるほど齧られた爪はニコチンに染まり、洒落たカットのコールテン地のコートはみすぼらしく皺が寄って薄汚れている。といった一連の証拠から判断して、さまざまな問題、罪悪感、コンプレックスを抱えた女の子、ということが想像されよう。