マルキ・ド・サド「ソドム百二十日」(澁澤龍彦 訳)

「しかし、わたしくらいの年齢で、わたしのような考え方をしている人間は、そんなことで躊躇逡巡するものではありません。まさかわたしが女を情婦にする気でいるなどと、お考えになっているわけではありますまいね? さよう、わたしは自分の気紛れに奉仕させるため、数限りない些(ささ)やかな秘密の放蕩を隠蔽するためにこそ、女を求めているのです。秘密の放蕩を覆いかくすには、結婚という隠れ蓑がもっともよろしい。一口に申しあげれば、あなたがわたしの娘を求めておられるごとく、わたしも彼女を求めているのですよ。あなたの目的と欲望を、わたしが知らないとでもお思いですか? わたしたち道楽者は、女を奴隷のごとくに扱うものでしてな。情婦より妻という名目の方が、はるかに女は従順になるものです。わたしたちの味わう快楽において、専制主義というものがどんなに貴重なものであるかは、あなたもよく御存じでしょう」