マンスフィールド「小さい女の子」(崎山正毅 訳)

 「さあ、お前の脚をお父さんの脚にすりつけて暖めなさい。」と父親はいった。
 疲れきっているのか、父親は女の子よりもさきに寝こんでしまった。そのとき、女の子には、妙な感じがわいて来た。気の毒なお父さま! こうしてみると、別にとても大きいというのではなし……それに誰も面倒をみてあげる人はなし……なるほど、おばあちゃまよりはごつごつしているが、気持のいい堅さだわ……それにお父さまは、毎日お働きにならなければならないんだ、とてもお疲れになるので、マクドナルドおじさんのようにはなされないんだわ……それに、私ときたら、お父さまの大切な書きものをすっかり破いてしまったんだもの……
 女の子は、とつぜんからだをふるわせて、ためいきをついた。
 「どうしたんだ?」と父親はたずねた。「また夢を見たのか?」
 「あのね――」と小さい女の子はいった。「私の頭がお父さまの心臓の上にあるの。どきん、どきんと音が聞こえるの。お父さまの心臓なんて大きいんでしょう――ねえ、お父さま!」