マンスフィールド「小さい女の子」(崎山正毅 訳)
父親が、手に定規をもって、部屋にはいって来た。
「罰だ、ぶつ!」と彼はいった。
「いや、いや!」と女の子は叫んで、夜具の下にちぢこまった。
父親は夜具をはねのけた。
「そこにすわりなさい。」と父親は命令した。「手を出して! これからは、いっさい他人のものに手をふれてはならないということをわからせてやる。」
「でも、あれは、お父さまの……た……た……たんじょう日のための……」
女の子の小さな桃色の手に定規の雨が降った。
それから、何時間かたったあと、祖母が女の子をショールでくるんで、揺り椅子でやさしく揺(ゆす)ってくれるのだった。女の子は祖母のやわらかいからだにぴったりとよりそっていた。
「神さまは、なんのために、お父さまなんてものをおつくりになったんでしょう。」と女の子はすすり泣きながらいった。