アンドレ・ブルトン「溶ける魚」(巖谷國士 訳)

いま彼女は私のはてしらぬ愛とむかいあい、大地の吐息にくもるこの鏡のまえで眠っている。眠っているときにこそ、彼女はほんとうに私のものになるのだ、私は彼女の夢のなかへ盗人のように忍びこみ、そして、まるで王冠を失うかのように、彼女をほんとうに失ってしまう。私は黄金の根をうばいとられている、なるほどそうだ、でも、嵐の糸をにぎりしめ、罪の蠟の封印をまもっている。