アンドレ・ブルトン「溶ける魚」(巖谷國士 訳)

 公園はその時刻、魔法の泉の上にブロンドの両手をひろげていた。意味のない城がひとつ、地表をうろついていた。神のそば近く、その城のノートは、影法師と羽毛とアイリスをえがくデッサンのところでひらかれていた。〈若後家接吻荘〉というのが、自動車のスピードと水平の草のサスペンションとに愛撫されているその宿の屋号だった。そんなわけで前の年にはえた枝々は、光が女たちをバルコニーにいそがせるとき、ブラインドに近づいて身じろぎひとつしなかった。若いアイルランド娘は東の風の泣きごとに心みだされながら、乳房のなかで海の鳥たちが笑うのをきいていた。