フランソワ・ラブレー『ガルガンチュワ物語』「ラブレー第一之書」(渡辺一夫 訳)

この書(ふみ)を繙(ひもと)き給う友なる読者よ、
悉皆の偏見をば棄て去り給えかし。
また読み行きて憤怒すること勿れ、
この書は禍事(まがごと)も病毒をも蔵(おさ)めざれば。
げにまことなるかな、笑うを措きては、
全きものをここに学ぶこと僅かならむ。
我が心、他の語草(かたりぐさ)を撰び得ざる所以は、
卿(けい)らを窶(やつ)れ衰えしむる苦患を見ればこそ。
涙よりも笑いごとを描くにしかざらむ、
笑うはこれ人間の本性なればなりけり。


  楽しく生き給え。