ジャン・ジュネ『泥棒日記』(朝吹三吉 訳)

 わたしはこの日記のなかで、わたしを泥棒というものにしたほかのいくつかの動機を隠そうとは思わないが、そして、そのいちばん単純なのは食うためにということだが、しかしこのわたしの選択には、反抗心、怨嗟、憤懣、その他これに類する感情は何の役割も演じなかった。わたしは偏執狂的(マニヤック)な入念さで、それこそ「厳重に眼を光らせながら」、あたかも人が情事のために寝室や臥床(ふしど)の用意をするように、わたしの冒険を準備したのだった。――わたしは罪悪に向ってまさに勃起したのだ。