ドストエフスキー『悪霊』(江川卓 訳)

 世の中には奇妙な友情がある。友だち二人、おたがい相手を取って食ってもあきたりぬといった仲で、生涯そんなふうに暮しながら、そのくせ別れることができない。いや、別れるどころの段ではなく、かりにそんな事態になりでもしたら、まずは、ひょんな気まぐれから絶交に踏みきった当人のほうが病にとりつかれ、果ては悶死もしかねない騒ぎなのだ。