カート・ヴォネガット・ジュニア『タイタンの妖女』(浅倉久志 訳)

 群集はなにも見えないことを知りながらも、現場の近くにいることに、のっぺりした塀を見つめて中の出来事を想像することに、めいめいが楽しみを見出しているのだった。実体化の神秘は、絞首刑の神秘とおなじように、塀によって強められていた。病的な空想という幻燈によって――群集が空白の塀に映し出すスライドによって――ポルノグラフィーに変えられていた。