J・L・ボルヘス「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」(鼓直 訳)

あらゆる哲学はもともと弁証法的な遊戯で、つまりアルス・オプの哲学であるという事実が、その数の増加に寄与している。信じがたいが、みごとに構築された、感動的な体系が多数ある。トレーンの哲学者たちは真理を、いや真理らしきものをさえ探求しない。彼らが求めるのは驚異である。哲学は幻想的な文学の一部門である、と彼らは考える。ひとつの体系とは、宇宙のあらゆる相の、あるひとつの相にたいする従属にほかならないことを知っている。「あらゆる相」という表現でさえしりぞけられねばならない。なぜならこれは、現在の瞬間とさまざまな過去のそれとの不可能な総和を予定するからだ。複数の「過去のそれ」というのも、べつの不可能な操作を前提とするので正しくない……。