レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』(川田順造 訳)

生にとって掛け替えのない解脱の機会、それは……われわれの種(しゅ)がその蜜蜂の勤労を中断することに耐える僅かの間隙に、われわれの種がかつてあり、引き続きあるものの本質を思考の此岸、社会の彼岸に捉えることに存している。われわれの作り出したあらゆるものよりも美しい一片の鉱物に見入りながら。百合の花の奥に匂う、われわれの書物よりもさらに学殖豊かな香りのうちに。あるいはまた、ふと心が通い合って、折折一匹の猫とのあいだにも交わすことがある、忍耐と、静穏と、互いの赦しの重い瞬きのうちに。

   ※太字は出典では傍点