クロソウスキー『歓待の掟』(若林真・永井旦 訳)

いまぼくは、ルクレティアの狂乱した表情を、細部にわたって述べてみよう。彼女の手は、強引に接吻しようとするタルクイニウスの口を避けるように見せかけながら、明らかに手のひらを彼に与えている。また下腹部におかれているもういっぽうの手は、宝物への接近をはばむどころか、いまやうきあがって、指をのばしている。つまり、トネールが表現しようとしたものは、ひとつの魂、ひとつの肉体において、精神的嫌悪と快楽の氾濫が同時に起こる様相である。その情景を彼は二つの手の様相によって表現した。すなわち、一つの手は嘘をつき、もういっぽうの手は、指にみなぎってきた罪を告白しているのだ。