ジャン=ジャック・ルソー『孤独な散歩者の夢想』(今野一雄 訳)

こうしてわたしは地上でたったひとりになってしまった。もう兄弟も、隣人も、友人もいない。自分自身のほかにはともに語る相手もない。だれよりも人と親しみやすい、人なつこい人間でありながら、万人一致の申合せで人間仲間から追い出されてしまったのだ。人々は憎悪の刀(やいば)をとぎすまして、どんな苦しめかたをしたら感じやすいわたしの魂にこのうえなく残酷な苦痛をあたえることができようかと思いめぐらしたすえに、わたしをかれらに結びつけていたいっさいのきずなを荒々しく断ち切ってしまったのだ。