ギボン『ギボン自伝』(中野好之 訳)

私が庭園の東屋で最後のページの最後の数行を書いたのは、一七八七年六月二十七日の日というよりも夜の十一時と十二時の間であった。私は筆を擱いた後で、田園、湖水、山脈の景観を見渡すアカシア並木の散歩道を何回か歩き廻った。空気は温暖で天空は澄み渡り、丸い銀色の月が湖面に映って万象寂(せき)として声がなかった。