カンディンスキー『カンディンスキーの回想』(西田秀穂 訳)

バラ色、ライラック、黄色、白、青、浅緑の、真紅の家々や教会――それぞれが自分たちの歌を――風にざわめく緑の芝生、低いバスでつぶやく樹々、あるいは千々(ちぢ)の声で歌う白雪、葉の落ちた樹々の枝のアレグレット、それに無骨で無口なクレムリンの赤い壁の環。……このときを色彩で描くことこそ、芸術家にとって至難の、だが至上の幸福である、とわたしは考えたものである。