小林秀雄『モオツァルト』

天才とは努力し得る才だ、というゲエテの有名な言葉は、殆ど理解されていない。努力は凡才でもするからである。然し、努力を要せず成功する場合には努力はしまい。彼には、いつもそうあって欲しいのである。天才は寧ろ努力を発明する。凡才が容易と見る処に、何故、天才は難問を見るという事が屢々起るのか。詮ずるところ、強い精神は、容易な事を嫌うからだという事になろう。