林達夫「批評家棄権」

ほんとうに芸術を愛好していては、なかなか「批評家」なんかにはなれない。私の場合、一つの小さな愛好でさえ百の嫌悪から成り立っている。だから「批評家」になるには、百対一の割合で、その百の嫌悪の根拠を人の前に説明する饒舌な閑人となることを覚悟せねばならぬ。そんな閑があったら、むしろ昼寝をする。