森有正『バビロンの流れのほとりにて』

遥かに行くことは、実は遠くから自分にかえって来ることだったのだ。これは僕に本当の進歩がなかったことを意味してはいないだろうか。それとも本当に僕の「自分」というものがヨーロッパの経験の厚みを耐えて、更に自分を強く表わしはじめたのだろうか。今僕はこの質問に答えることができない。これに答えるにはおそらく数十年の歳月がかかるだろうからである。ただ僕は、自分の中に一つの円環的復帰がはじまったことを知るのである。