保田與重郎「日本の橋」

日本の橋は材料を以て築かれたものでなく、組み立てられたものであつた。原始の岩橋の歌さへ、きのふまでこゝをとび越えていつた美しい若い女の思ひ出のために、文字の上に残されたのである。その石には玉藻もつかう、その玉藻は枯れ絶えても又芽をふくものだのに、と歌はれた。日本の文化は回想の心理のもの淡い思ひ出の陰影の中に、その無限のひろがりを積み重ねて作られた。