本居宣長『玉勝間』

おのれ古典(いにしえぶみ)をとくに、師の説とたがへること多く、師の説のわろき事あるをば、わきまへいふこともおほかるを、いとあるまじきことゝ思ふ人おほかめれど、これすなはちわが師の心にて、つねにをしへられしは、後によき考への出来たらんには、かならずしも師の説にたがふとて、なはゞかりそとなむ、教へられし。こはいとたふときをしへにて、わが師の、よにすぐれ給へる一つ也。

   ※師 賀茂真淵のこと。
   ※なはゞかりそ 遠慮してはならない。