ヘミングウェイ「キリマンジャロの雪」(高見浩 訳)

 おれたちにはみな、生れたときから固有の才能が備わっているんだろう、と彼は思った。それぞれが暮らしを立てている、その在り様(よう)こそ、才能のしからしむるところなのだ。おれはこれまで、自分の活力をさまざまな形で売ってきた。人間というやつは、あまり愛情がからまないほうが、相手の金に見合う楽しみをもっと与えてやれるものなのだ。おれはその真理を発見したのだが、もはやそれについて書くこともないだろう。そう、それは書くに値することだが、もはや書くことはあるまい。