ニーチェ『道徳の系譜』(木場深定 訳)

疑いもなく、病気であることは為めになる。健康であることよりも更に一層為めになる。病気にする者が今日では医者だの「救い主」なんかより一層必要であるようにさえ思われる。疑いもなく、われわれは今やわれわれ自身に暴虐を加えている。われわれは魂の胡桃鉗(くるみわり)である。われわれは問う者であり、問うにふさわしい者として、あたかも生きることが胡桃を割ることよりほかの何物でもないかの如く問い尋ねる。それ故にこそわれわれは必然に日一日とますます問うにふさわしいものとなり、いよいよ問うに値するものとならなければならず、その故にこそ恐らくはまたいよいよ――生きるに?値するものとならざるをえないのではなかろうか……

   ※太字は出典では傍点